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脳害倉庫
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この骨格この色この匂い

形成された事がそもそもの間違いであったのに

何時まで経っても気付かないまま

過ちの容で私は揺り篭から墓場まで
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「っからせめぇよお前もっとそっち行け!」

「え何で俺が…立てばKJ」

「ざっけんな俺のリンダだぞ」

「だったら痩せれば」

「こっちの台詞だっつのデブ!な~リンダ♪」

「うぁ…歌うな音痴。音感が狂うだろ」

「んだとてめぇー!」

「あ、いいな今の音。もう一回くれ」

「お、…おー、何だこれ」

「新しい」

「おもしれぇ」

「ガキ共ー、瓶倒すんじゃねぇぞー」

「へーい」「はーい」
あぁ、死ぬなと思った。

死にたくないと絶望する訳でも、また反対にこれで楽になれると歓喜する訳でもない。

自分はこれから死ぬんだろう。

間もなく自分に訪れるであろう未来の切れ端を、折れた牙で噛み締めていた。

だって、どこもかしこも動かないのだ。

脚も耳も尻尾も。

何日か前まではまだゼヒゼヒ耳障りな音を立てていた喉からは、もう何も聴こえない。

その何日か前、空腹よりも喉の渇きに耐えられずにドブ水を啜ったら夜に吐いて、もっと喉が渇いた。

その次の日に、フラフラする脚で何か口に入れるものを探していたらマンホールに落ちた。

したたか全身を打ちつけ、前脚がおかしな方向に曲がって牙が折れた。

口の中に生温くしょっぱい味が広がった。

何日かぶりの味のあるもの。

思わずこくりと飲み下すと、胃から得体の知れない物が逆流してきて、赤の混じった液体を吐き出した。

ひどく咳き込むと涙が出てきて、まだ自分の身体に水があったのかと妙に感動を覚えた。

鼻が乾いているのはずっと前から気付いているけれど、舌で潤す気も起きない。

いつか見知らぬ野良犬に千切られた耳と尻尾はどうなっているだろうか。

どうでもいいか。

もう痛みも無い。

何だか何もかもが億劫だった。

コンクリートに押し付けた耳にかすかに感じる規則的な震動は自分の鼓動だろうか。

無駄だよ。

いっそ哀れむような気分で肉体の最期の足掻きを嘲笑った。

かわいそうにね、分からないのか?

僕はこれから死ぬんだ。

天国へ行くんだよ、いいだろう?

そんな所へ行ける保障はないし天国なんて見たことも無いくせに、誰に対してか分からない無意味な見栄をはった。

きっと花が咲いている。

自分は笑いながら匂いを嗅ぎ、花びらに溜まった甘い露を舐める。

そして自分はきっと



遠くなる意識の淵で、頬に冷たい水が落ちた気がした。

「あき」
初夏の昼下がり。

陽が入りにくく比較的涼しい土間で爪を切っていたら、名を呼ばれると同時に背中、ちょうど肩甲骨の辺りにぺたりと温かい感触があった。唯でさえ夏の陽気に火照った体にも関わらず、Tシャツ越しにもそれは熱く感じられた。それでも別段不快に感ずるでもない。もともとこの弟は体温が他人より高めである。その高めの体温は、日当たりのいい縁側での昼寝によって、普段のそれよりも更に上がっているように感じられた。弟は、あまり体温調節が得意でない。
あぁ、アイスでも買ってやるかな。
水分補給をしてやらなければならない。義務感とも思いやりともつかずそう思索していたら、再び寝起きの舌足らずな声で呼ばれた。
「あき」
忘れていた。
「ごめん、何?由」
爪切りをしまいながら振り向こうとしたら、
「はね」
!?
ガバリとTシャツを捲られ背中を剥き出しにされ、直に触れられる。晒された外気と湿り気を帯びた手の温度が心地いい。そう冷静に感じられるくらいには、弟の突拍子もない行動に耐性が出来ていた。万一抗おうにも、もう二年もすれば成人するような歳の弟は(兄の立場からすれば忌々しいことに)自分よりも背が高いし、基本的に五体満足で下手をすれば自分よりも健康体だ。力では、負けるとも思わないけれども勝てるとも思えない。
ゆーいーひくーん、何ですかー?」
当惑を籠めて肩越しに問うと、無心にそこにある、あるいはないものを探していた瞳が上がった。ガラス窓から入った光が黒目に射し、漆黒が透明感を増す。瞳に表れた困惑は、そのまま言葉に乗せられる。
「はね」
言葉になったところで容易に理解できる形にはならない。はっきり言って困惑したいのはこっちだが、元来そう短気な方ではないし、裏切られたかのような色の視線を向けられれば自分が何か悪いことをしている気になる。結局のところ、根気よく話を聞いてやる他ないのだ。とりあえず背中を丸出しにされたこの体勢では話がしにくいし幾分か寒気も感じてきたので、由燈、といって手を放してもらう。体ごと後ろを向くと、とにかく聞こえた言葉から推測してみた。

「“はね”、って…羽?飛ぶやつ?」
両腕を羽ばたくように動かすと、目を輝かせてそぉ、と言った。よかった、通じた。のはいいが、まだ自分の背中を探られる理由が理解できない。
「羽が、何?」
ゆっくり区切って言ってやると、さも当然のように答えが返ってきた。
「あきの、はね」

成る程、おれの羽か。20年強生きてきたけど自分に羽が生えているとは露ほども知らなかったよ。何で教えてくれなかったんだお母さん。死んだ母親にまで問いかけてみたくなる。余りの理解不能さに首が落ちた。
「あきの、はね、くじらの」

頭頂部に呟かれた言葉で、ようやく合点がいった。

夢の話だ。

由燈は眠りが浅いらしく、眠っている間によく夢を見る。そしてその内容は、大体家族が関係する。父親であったり母親であったり兄である自分であったり。

そして「くじら」は、幼い頃両親や由燈に誇らしげに語った夢だった。大好きな絵本の話に感化されて見た夢。

大きくなったら空を飛ぶ大きな鯨になる。そして家族を背に乗せて飛ぶと。

子供の頃の幼い夢など成長してみればただただ気恥ずかしいものだ。そのことで母親には冗談抜きで死ぬ直前までからかわれたし、母親が死んだ後も心ある(言っておくが皮肉だ)友人のからかいの元になったが、そう邪険にするような思い出でもなかった。そもそも今現在も話の種になっている時点で思い出とは言えない。そう呼ぶには褪せていなさ過ぎた。

それにしても。

羽?

鯨に?

「…鯨に羽はないよ」

夢の話に一般常識も何もないだろうが、他にコメントの仕様もなくごく当たり前のことを言ってみる。そうかとすぐに納得するような弟でもないことは分かっていた。知能や常識云々以前に、どうにもこうにも思い込みが激しく頑固だ。そういうところが、顔の造形にも増して父親にそっくりだった。とはいっても両親の離婚で七つの時から離れて暮らしていたため、自分の中の父親像はほとんど全て母親の談により形成されている。

あぁ、あの空飛ぶ鯨の絵本はまだ押し入れかどこかにあるだろうか。あきのはね、くじらのはねといって依然自分の背を覗き込もうとしている弟に、鯨がどういう生き物なのか見せてやりたい。それから由燈が夢で見た羽の生えた鯨?自分?の絵を描いてもらおう。あぁその前に。

由燈の白い面。その鼻の下に細かく浮いた汗の玉に。

アイスを買いに行こうと思った。


俺らの巣である「犬小屋」は大して悪いところじゃない。
ゴミにはゴミ溜めがお似合いだ。皮肉でも何でもなく思う。
服従の仕方と尻尾の振り方。それさえ知ってりゃ残飯だろうが食ってはいけるし
鼻が利かなきゃ餓えて死ぬだけ。「犬死に」なんて俺らにとったらシャレにもなんねぇ。
あからさまな差別や侮蔑の目も受け入れてしまえばなんてことはない。
年寄り連中はやたらと血の誇りを翳し自分らを哀れみたがるけどそんなことには興味がない。
自分が「雑種」であることに誇りも悲しみも何の感情も湧かない。
余計なプライドは生きるには邪魔なだけだ。
このことを本当に思い知ったのはまだ手足が伸びきる前のこと。
生まれて初めて「純系」と遇った。匂いで分かった。こいつは俺とは「違うモノ」だ。
その「きれいな血」が場違いなゴミ溜めで生きて死ぬのを目の当たりにして、俺は生きるということのホントの意味を知ることになる。
いつも腫れぼったかった瞼を舐めた時の塩と鉄の混じった味をまだ覚えてる。
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